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戦略立案者のための手引書

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    事業戦略立案プロジェクトを成功に導くコツについて書いておこう。

    (*:読むのに10分くらいかかるので要注意です。)


    まず、プロジェクトがスタートしたら、いの一番にやることは、事業の全体像の把握である。

    これは二つある。

    事業構造の把握と、収益構造の把握である。
    前者が原因、後者が結果という表裏一体関係にあるが、この2面から分析をすることでより正確さを担保することができる。

    事業構造・収益構造は、それぞれ、縦軸に製品(ないしは顧客)カット、横軸にビジネスシステムを用いたマトリクス表を作成するところからはじまる。収益構造マップはこちら

    収益構造については、各セル毎に(縦7、横7なら、49セル)、売上・コスト・投下資産を記入し、バランスシートを含めた収益性を把握する。

    把握するメッシュ(網の目)については、売上100億未満の事業で、縦・横、最低5行、300億以内で、7行、それ以上で、12行以上が好ましい。

    これ以上のメッシュだと把握が困難になり、それ以下だとアクションにつながる課題を抽出しづらい。


    収益性の把握については、費用および投下資本の配賦が必要になるが、配賦基準として有効なのは、生産量・人的工数・売上比例などであろう。また個別に帳簿レベルで把握ができるのであれば、積み上げも有効であるが、調査にかかる工数を考えるとペイしない。

    さて、収益性が把握できたら、これらの収益構造マップから見出せる課題を解決する方向性を各セル毎に考える。

    方向性は、変動費見直し、価格戦略を中心とした取引構造の見直し、撤退、注力等に大まかに分解される。

    注意点は、各セルに共通するコスト(固定費)が存在することである。
    たとえば、ある製品につき、撤退を検討した場合、それに対応していた生産設備の償却コストや営業担当者の人件費は、他の部門に配賦されることになり、結果として全体では利益が低下する可能性がある。

    このようなミスを防ぐために、各セル間の共有資源構造を把握するマップを別途用意することが好ましい。

    以上の手続きを、実際には2週間〜1ヶ月をかけてやることになろう。

    その結果、戦術的な打ち手(Quick Hits:、通常、3ヶ月以内に実施されるものである)を抽出することが簡単にできる。

    次の段階は、Quick hitsの成果インパクトを向こう3年にわたって定量化することである。

    ポイントは、まずざっくり数値を推計してしまうこと、打ち手に伴う投資(人的・物的)を考慮すること、実行のイメージがわくまで施策案を現場で練ることである。

    ここまでやると、ようやく戦略的といえるレベルの方策を次に考える準備ができたことになる。

    戦略的視点で物事を考えるときに重要なコツは、枝葉末節を遠慮をせずにとり払い、シンプルなコンセプトを導出すること、長い時間軸で考えること、アナロジーで考えること、そしてロジックや数字でなく、イメージの世界で、戦略を組み立てることであろう。

    いずれにせよ、高度なメタ思考(抽象思考)が求められる。

    コンサルティングの世界では、常に「feasibility(実現性)」と「Impact(実行成果)」の掛け算の中で、より高いアウトプットを求められるわけであるが、こと後半の戦略立案局面の初期段階では、一旦、feasibilityを取り払い、Impactとその持続可能性に焦点を絞り、ホワイトキャンパスに向かって自由に筆を走らせる、という姿勢がもっとも大事である。

    私自身は、特に後半での思考的自由度を感情的に担保するために、できるだけ前半で、feasibleな戦術的施策を練ることに時間を使っている。

    前半部分で、コンサルティング価格およびプロジェクトに関わるメンバー工数を大きく上回るキャッシュフローの裏づけある施策を立案できるのであれば、後半の仕事は、より職人的で楽しくなるからだ。

    戦略の立案に定石は見出しづらい。

    戦略的というときの重要な前提は、単に大きな成果が期待できる、といようりも、その会社、そのシチュエーションにおいてユニークな個別解でなければならないからだ。

    したがって、必ずある方法をもって行えば戦略的施策が出てくる、ということはない。

    しかしながら、いくつかのパターン認識とでもいうべきものがあるので紹介したい。

    ひとつは、アナロジーが有効に機能するということ。業界には、自然界のすべての秩序と同様、ライフサイクルがある。したがって、当該対象事業がどのライフサイクルの時点にあるのかを突き止め、他の業界において、同様のライフサイクルの時点で成功した方針を踏襲するという方法が有効だ。

    具体的にいえば、飽和・凝縮された小売業界が合従連衡の波にさらされた場合、それに乗り遅れた企業は、小売業界を超えた別の企業との戦略的提携によって息を吹き返すことがある。ビックカメラ

    このようなライフサイクル後期における業界を超えた提携のあり方は、十分に他業界において適用可能である。

    ただその本質は、「業界ポジションを違う角度にスライドさせることによるあらたなる収益機会の創出」にあることを知っていなければ、まったく同じことを行っても失敗する可能性は高い。

    あるいは、戦略的視点という際の別のコツは、「2つの楔(くさび)」を打ち込むということである。

    前半フェーズで収益改善機会の発掘に、“まじめ”に取り組めば(往々にして、この宿題をこなしていない場合が多いが・・・)、必ず、その企業のよって立つ「強み」というものが見えてくるものである。

    ただ、単にひとつの強みにのみ立脚した戦略はもろい。

    もうひとつ、戦略の要諦ともなる強み(あるいは機会)を組み込めば、戦略の立脚点が、「点」から、点と点をつなぐ「線」へと変わる。

    このときに戦略の土台がより強固になるのだと思う。

    たとえば、独自のニッチ分野の開発に強いメーカーが、その収益モデルにおいて、単に製品の販売だけでなく、その製品を“包み込む”ようなパッケージ型のサービスを提供した場合、その製品価値がブラックボックス化するとともに、顧客側のスイッチコスト(変更可能性)があがり、より高い収益性を長期にわたって担保できる可能性が出てくる。

    独自の開発力と、独自の収益モデルという二つの独自性を持つことによって、事業基盤がより強固になるだろう。


    2ヶ月目の終わりぐらいに、戦略のコンセプトとも言うべき方針がある程度決まってきたら、戦略コンセプトを具体化する必要がある。

    方向性は二つである。

    ひとつは、戦略の実行について、組織・体制面、資金面、時間軸、代替オプション、進捗フォローフォーマットおよびKPI(指標)を用意しておくことである。

    もうひとつは、戦略的施策を打った場合のバリュエーションを弾いておくことである。

    戦略をコンセプトレベルで投げっぱなしておくと風化する。

    必ず具体化が必要であり、それは最低限、担当者およびアクションプランが用意されていることである。

    そして願わくば、その後、6ヶ月にわたって進捗状況を逐次レビューするためのガバナンス(監査)体制を確立することである。

    ガバナンス(監査)は当然ながら、外部が担当することが好ましい。

    もっともよい体制は、外部専門家の監査を受けながら、プロジェクトオーナーを社長とし、実行担当者を執行役員・事業部長とすることである。

    外部専門家は、フィーをオーナーから請求しながら、現場に対してガバナンスを利かせる。この三つ巴の体制が重要で、フィーの支払い元を実行者にするとうまくいかないので注意が必要である。

    さて、以上、長くなったが戦略立案の要諦を経験論的にまとめてみたが、ちょっとでもお役に立てたらうれしい。

    コメントもお願いします。

    最後に、業界専門用語が多くなってしまったことをお詫びします。